卓話者:カール・ベンクス(ドイツ人建築デザイナー)
・日時:7月8日(火)15:00~17:00
・場所:ふれあいふるさと館(県人会館)2Fホール


「私はよく”変なドイツ人”と言われます。でも自分ではまったくそう思っていません。ただ、日本の木造建築に強く惹かれただけのドイツ人です。」
ーこれは、ベンクスさんがご自身を紹介された言葉です。実のお話を伺って感じたことは、古民家への深い思いが、むしろ日本人以上に”日本人らしい”ということでした。
1942年ベルリンに生まれ、絵画修復しだった父の影響で浮世絵や根付に触れる機会があり、日本への関心をさらに深めたきっかけだったそうです。最初の来日は柔道と空手の修行のためだったとのことで、立派な体格からもその熱意が伺えます。
また京都・桂離宮を紹介した「ブルーノ・タウト」の著書をきっかけに日本建築の美しさに心が動かされたことが、
日本への関心をさらに深めたきっかけだったそうです。


古民家再生の実践

1968年に初来日し、日独双方で古民家の再生・移築ビジネスを展開。1993年秋、移築する古民家を探していた折、人々が暮らし続け、歴史と文化に育まれた山里「竹所」に出会います。その静かな風景に一目惚れし、「ここで歳をとりたい」と感じ、居宅となる古民家を購入・再生しました。
外観は廃屋同然でしたが、内部には雪国特有の太い柱や「鉄砲梁」と呼ばれる立派な材料が使用されていました。2年かけてリノベーション(再生)を施し「双鶴庵」と名付け、奥様と共に住み始めました。
その後、老舗旅館をリノベーション(改修)して事務所を構え、古民家再生を通じて里山の魅力を世界に発信。
木造建築は文化そのもの
近年、建物さえも使い捨ての時代になっています。
ですが、古民家の骨組みは分解・再構築が可能であり、雪国の頑丈な構造を移築し、各パーツを作り直すことで百年、二百年と住み続けることができます。
「日本の木造住宅はけっして”ウサギ小屋”などではありません。そこには文化があります。」
特に新潟のような雪深い地域の古民家には自然との共生の知恵が詰まっており、”古いものを大切にする”という価値を教えてくれます。中にはツバメの巣を残している古民家もあり元住民の心遣いに触れることもあります。
茅葺屋根と日本の技術
日本では茅葺屋根の葺き替えは約30年が目安ですが、ヨーロッパでは140年も持つ事例もあります。
古民家の改修では、木の文化と技術を最大限に活かされています。
釘を使わず、軸組や継手によって建てる技術は、昔の日本の大工の技によるものであり、茅葺屋根に銅板を被せる「銅板葺き」の手法も活用されています。
ヨーロッパで日本建築再現
ヨーロッパ各地で日本建築の移築プロジェクトに携わり、パリやミュンヘンなどで日本建築と内装を再現する活動を行いました。文化の架け橋を築くという強い思いを込めた仕事だったそうです。
十日町市竹所と松代での活動
現在は新潟県十日町市竹所に住み、事務所のある松代(ほくほく通り商店街)を拠点に活動中。
多くの見学者や移住希望者が訪れ、ドイツからの若者も修行に来ます。
街並みを美しくすることにも意義を見出しており、Uターンする人々も増加。
地元住民と移住者が交流することで、田舎の伝統文化と都会の現代文化が出会い、新たな価値を創造されています。生活スタイルが生まれ、文化的景観が生まれました。
農山村の景観も、いつまでも変わらないわけではなく、時代と共に変化します。
その変化がどのように伝統を受け継ぎながらデザインされるかーそれこそが、これからの鍵ではないでしょうか。
心に残る言葉と感謝



私は、東山魁夷の言葉ー「古い家の無い町は、思い出の無い人と同じです。」
“静けさの中にある美”という言葉にも深く感銘を受けました。これはまさに日本建築の本質だと思います。
日本には素晴らしい文化が残っています。
是非それを受け継ぎ、新潟から世界に向けて発信をしていって欲しいと思います。竹所には、そんな「暮らし」を求め、東京からも移住する人も増えています。これまでの活動は「ふるさとづくり大賞」など数々の賞により評価されました。
「ドイツよりも新潟が私のふるさとになりました。今日こうして東京でふるさと出身者の皆さんとご一緒出来てとても嬉しいです。」ーこの言葉が印象的でした。
今回の「卓話の時間」にはこのところの「卓話」としては最大の91名の方々が参加。
カール・ベンクスさんの、プロジェクターをつかった詳細なる講演に熱心に耳を傾けておりました。
講演後には、会場から多くの質問が寄せられましたが、どれも丁寧かつ的確に応答されて、理解がさらに深まりました。また、卓話の時間の二次会として「ベンクスさんを囲んで交流懇親会」が県人会館ホールで開催され、80名が参加して卓話の余韻に浸りました。
(文責:及川恒夫/会報誌2025年9月号掲載)
■カール・ベンクスさんのWebサイトは下記になります
https://karl-bengs.jp/
