最新の中国事情とこれからの日中関係

会の活動報告

山岸憲司(元・日弁連会長/見附市出身)
日時:2022年3月8日(火)
場所:ふれあいふるさと館2Fホール

権威主義、強権主義といわれる中国における法と司法はどう変わったか
 元日弁連会長であり、現在、日中法律家交流協会の会長を務める山岸憲司氏が、自身の最初の訪中から15年間に5回にわたる中国訪問と立法機関や裁判所、弁護士協会との交流を通じて、中国社会の変わりようの速さに驚き、大きく変貌する中国社会の近代化の現状を目の当たりにして、(先入観を捨てて)新たな視点や価値観を持つに至ったその思いを語られた。

◎卓話の要旨◎
 中国社会には表現の自由がないとか、一党支配下での「法治」に疑問を呈し、人権問題などに強い批判を加える意見が多いが、この十数年間の変貌は目を見張るものがある。中国をただ侮ったり、敵視したり、無視したりするのではなく、「西側の尺度での民主や法治の評価をするのは間違いである」とする中国側の主張にも耳を傾け、自国の政治を「全過程人民民主」であるとする彼らの議論の中身や、彼らなりの「法治」や「民主」についても理解したうえで、正しく批判をしようとする姿勢をもつ必要があると考える。彼らの言う「法治」は、我々の言う「法の支配」とは確かに異なるのではあるが、違いは違いとして、対話をし、理解を深めるべきである。「悠久なる自然、変貌する社会」ということを強く感ずるが、中国の50を超える民族、14億人を超える人口を抱えて統治することの困難さもある中で、経済発展を実現し、市民生活は、少なくとも都市部においては確実に豊かになったし、昨今は、貧富の格差を解消すべく「共同富裕」の実現に向けての取り組みも始められている。

電脳社会主義を統治モデルに
 また、最先端の「IT」技術を大胆に取り入れて、インターネットの普及によるビックデータの活用などにより「デジタル先進国」を目指し、「AI」を戦略技術に位置づけ、商流の円滑化と国民の行動管理を徹底するなど「電脳社会主義」を統治モデルとして、世界トップレベルの強国とするという「中国の夢」を実現すべく走り続けていると評される。

 個人情報を政府が管理するとしても行き過ぎを懸念するし、我々としては強い抵抗感があるが、取引社会などにおける個人情報の保護であるとかプライバシーの保護なり個人の権利保護のためのさまざまな法律も制定されてきている。

 中国の近代的な弁護士制度は、歴史が浅いが、すさまじい勢いで変貌し、海外の大学に留学する若者も多く、国家予算を注ぎ込んで弁護士の中から海外に留学させて専門性の高い弁護士、例えば、M&Aに強い弁護士を育成したり、知的財産権の侵害など国際的な紛争解決に備えて層の厚い弁護士を育成するなど体制を整えている。また、裁判制度も整備される中で、弁護士の数は、日本の4万3千人に対し、15年前は12.5万人だったのが~25万人~50万人と急増している。アメリカ型の巨大ローファームも出現しており、国際的に通用する経済法制の整備なども推し進められ、大規模化、専門化、国際化した法律事務所が、活発な活動を展開している。

着実に進む中国の法整備
 中国の法整備もこの間着実に進み、民事訴訟法、民法なども近代的な法律が完成し、知的財産やインターネットなどグローバルな展開に対応するため法整備もなされた。

 ところで、法令の解釈が分かれるときに、日本では「判例を作るために」と言って、最高裁の判決を得るまでに労力と時間を使う長期にわたる訴訟活動が必要であるが、中国では、予測可能性を与えるため最高人民法院(最高裁)の法令解釈を事前に国民に示すために制定される「司法解釈」という独特の制度があり、合理的なものであると考えられる。
 司法・裁判制度についてもIT化は進み、近代化に遅れを取った中国ではあるが、訴訟の現場におけるIT化は、日本よりも進んでいる。また、汚職の撲滅に向けた動きや裁判官の質の向上への取り組みも進んだ。

 グローバルな情報を調査研究し、技術もそうだが、法律も積極果敢に「いいとこ取り」で臨んでいる姿、あるいは、中国が未だに「人治の国」といわれながらも「法治の国」に向けて脱皮すべく有為の人材が日々努力していることを肌で感じてきた、と結ばれた。

(総務委員会/会報誌2022年05月)