【第52回卓話の時間】東急グループ100年の街づくりの歩み

会の活動報告

卓話者:髙橋 和夫氏(東急株式会社 代表取締役副会長 魚沼市小出出身)
開催日時:令和6年1月16日(火)15:00~17:00
開催場所:ふれあいふるさと館(県人会館)2Fホール

今回の「卓話の時間」は2022年(令和4年)9月2日に、創立100周年を迎えた東急株式会社の代表取締役副会長髙橋和夫氏から、東急グループが時代の変化に適応しながら国や都市・地域の発展とともに着実に成長してきた歩みと、これからの東急についてお話しいただいた。

東急グループの概要

東急グループは、220社7法人(2023年9月30日時点)からなる企業グループで、東急株式会社はグループの中核会社。2019年に「東京急行電鉄株式会社」から「東急株式会社」に商号変更し、鉄軌道事業は、会社分割により新設された「東急電鉄株式会社」が担っている。2023年度の業績予想は、連結子会社を含む営業収益約1兆円、営業利益850億円。

街づくりの歩み

東急グループの源流は、1918年に急激な都市化が進み人口集中による住宅環境の悪化を見据えて、郊外の緑豊かな住宅地から都心へ電車で通勤するという生活スタイルを世に提示し、洗足・田園調布等の住宅開発を実施した渋沢栄一翁が発起人の「田園都市株式会社」である。その鉄道部門を別会社としたのが、1922年に設立された「目黒蒲田電鉄株式会社」(現東急株式会社)であり、目蒲線(現在の目黒線の一部および東急多摩川線)、東横線などを開業した。

第二次世界大戦後、東京都区部の人口が膨張し、住宅不足が深刻化すると、当時会長だった五島慶太翁は、多摩川西南部の広大な丘陵地に着目した。当時はタヌキが出るような山で、国道246号線が細々とあったのみと聞いている。ここに都心との交通幹線(現在の田園都市線など)を敷くとともに大規模な住宅を開発して「田園都市」を形成することを構想した。それが1953年に発表された「城西南地区開発趣意書」であり、後に地域の皆さまとともに開発を進めることになる多摩田園都市へとつながっていく。

当社は、公共交通整備と土地開発の2つをルーツとし、互いに成長のエンジンとなることでこれまで発展してきた。街づくり事業を通じて社会課題の解決に取り組み、時代の変化に適合しながら、常に新しい価値を提供し、地域とともに着実に成長すること、それが東急のDNAである。田園都市線が1966年に長津田駅までの延伸したことと合わせて、多摩田園都市では、土地区画整理事業が本格化し、区画整理後、拠点駅周辺における商業施設の継続的な開発や、同地区をモデルケースとした街づくりの地方への展開やホテルなどの海外事業を始めた。また、豊かになる社会の中で多様化するニーズに応えるため、3C(カルチャー・CATV・クレジットカード)事業の展開や街の成熟に合わせたさまざまな機能の導入(オフィス、研究開発拠点、文化施設、ホール、スポーツ施設)など提供価値の質を深め、領域を拡大した。その一方で、1977年に新玉川線(現在の田園都市線渋谷~二子玉川)の開通や半蔵門線(1978年)、南北線・三田線(2000年)、みなとみらい線(2004年)、副都心線(2013年)、相鉄線(2023年)など他社局との相互直通運転による鉄道ネットワークの拡充などにより更なる交通利便性を追求してきた。

沿線外での事業展開

沿線での事業を通じて得た強みを生かせる領域・地域への事業展開を行い、事業地域における街の活性化と美しい生活環境の創造に寄与している。空港運営事業は、安全を基軸として交通インフラ事業との親和性が高く、当社グループのノウハウが生かせる新事業として各地域の空港運営受託を進めている。空港運営を足掛かりとして、東北、静岡・伊豆、北海道、広島などの地域において、既存のグループ事業と連携し、相互成長を目指している。また、職住遊環境の整備とバス事業の両輪による公共交通一体型の街づくりを成長著しいベトナムで展開しているほか、タイにおける分譲・賃貸住宅事業、オーストラリアでの宅地開発事業や都市開発事業(インフラ整備、雇用促進事業)も推進している。

渋谷駅周辺の再開発

1923年に「東横線渋谷駅」が開業して以降、「東急百貨店東横店」、「東急文化会館」などを開業したが、東横線渋谷駅の地下化および副都市線との相互直通運転の開始することが決定したことをきっかけに、渋谷駅周辺の再開発事業が始まった。

2012年に東急文化会館の跡地に「渋谷ヒカリエ」を開業したことを皮切りに、2018年に東横線渋谷駅の跡地に「渋谷ストリーム」を開業し、2019年に東急百貨店東横店跡地に「渋谷スクランブルスクエア」の第1期を開業させ、今後第2期開業も控えており、100年に一度と言われる大規模開発が進む。渋谷はすり鉢型の街なので、高低差があって歩きづらい。そこで、将来的な構想としては、渋谷駅周辺の建物の4階部分にスカイウェイのような回廊を作り、宮益坂の上から道玄坂の上までつなげる計画を立てている。各建物の地下3階から4階までにアーバンコアを設置することで縦移動もでき、渋谷駅周辺の縦横の移動が自由にできるようになる。またゆったりと過ごせるよう建物だけでなく広場を作るようにしている。

東急歌舞伎町タワー

当社は、これまで様々な街づくりを進めてきたが、単にハード面を手掛けるだけでなく、心の豊かさを実現するため、文化・芸術にも注力し、その知恵、知識を着々と積み上げてきた。

戦後の1956年には、渋谷と新宿に文化会館を同日に開業し、文化・芸術発信の拠点づくりを進めた。その跡地の再開発である東急歌舞伎町タワーでもこの点をしっかりと踏まえ、ホテル、エンターテインメント(劇場、映画館、ライブホール)、商業の機能に特化している。訪れる際のアクセス、街の回遊性がきちんと担保されていないと、それがボトルネックになって、街の発展が阻害されると考え、今回の東急歌舞伎町タワーの開業では、空港へのリムジンバスが入ってこられるように周辺道路を整備し、非常に便利にアクセスできるようになった。周辺道路を整備したことで、この街の外側の地域にも波及効果が生まれ、これまで足を運んでこられなかった人たちをはじめ、多種多様な方たちが歌舞伎町を訪れてくれる。なかでも若い女性が大勢訪ねてくれるようになれば、この街の雰囲気は相当変わるだろう。「この街に来れば楽しい、新しい発見がある」というものを常に提供していきたい。

これからの東急

当社は創業以来、街づくりを通じた社会課題解決に取り組んできた。当社の姿勢は今後も変わることはありません。2019年に発表した長期経営構想、そしてその先に見据えている将来の姿、多様化・複層化するニーズを取り組み、リアルとデジタルの融合による次世代の自律分散型街づくりに向けて、着実に歩みを進めている。講演の後、参加者との質疑応答が行われた。

高橋 和夫(たかはし かずお)氏

1957年 新潟県北魚沼郡小出町(現・魚沼市)で生まれる。
1980年 東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)に入社
2018年 東急株式会社 代表取締役社長に就任
2023年 同社 代表取締役副会長に就任(現)