【第55回卓話の時間】日本にとってのベトナムの重要性(Ⅱ)

会の活動報告

卓話者:梅田 邦夫氏(元ベトナム大使)
日時:5月14日(火)
場所:ふれあいふるさと館(県人会館)2Fホール

Ⅳ.政治安全保障分野で「信頼感の厚い国」:ベトナム

ベトナムは日本にとって、経済的、政治的、文化的にも非常に重要な国である。ベトナムの持続的な発展は、日本の国益にとっても非常に重要で、ベトナムとの関係強化は、日本の国際的な戦略においても重要な位置を占めている。以下の点でその重要性が際立っている。

①包括的戦略的パートナーシップ
ベトナムは地政学的に重要な位置にあることに加え、多くの戦略的利益を共有しており、信頼できるパートナーである。「自然の同盟国」ともいえる。

②経済関係
日本企業にとってベトナムは製造拠点であるとともに、ベトナムの若い人口と成長する中間層は、消費市場の拡大を促進し、新しいビジネス機会を生み出している。

③国際社会での役割
ベトナムは国際社会での役割・存在感が向上しており、国際舞台においても日本との連携が強化されている。

④文化的親和性
宗教や食事など文化的親近感も深く、多くの日本人がベトナムの発展に献身的に貢献している。指導者も含め両国間の交流は盛んである。

なお、ベトナムと中国は「中身」が大きく異なるとはいえ、社会主義国を標榜している。そのような国は、世界で5つ(中国、北朝鮮、ラオス、ベトナム、キューバ)のみ。ベトナム共産党は、既に中国共産党とは異なる自分たちの進むべき道を模索しているが、中国共産党の行く末はベトナム共産党に少なからぬ影響を与えると思われる。

Ⅴ.日本の人口減少問題・労働力不足を補う最大の貢献国:ベトナム

日本にとってベトナムの重要性が高まったもう1つの理由は、日本の深刻な労働力不足を補う最大の貢献国になっていることである。

①日本の人口減(総務省統計局、23年10月現在)は、外国人の人口増で緩和されている。

■総人口(日本人+在留外国人)
08年10月(ピーク)約1億2808万人→23年10月約1億2435万人(15年で約373万人減)

■在留外国人(08年末→23年末)
約222万人→約341万人(15年で約119万人増)

(参考)
都道府県人口(22年):北海道509万人(9位)、静岡県355万人(10位)
日本人の減少人数(過去15年):(イ)約373万人+(ロ)約119万人=約492万人
日本人減少数は年々拡大:12年―約22万人減、17年―約33万人減、22年―75万人減
毎年、一つの県が消えているのと同じである。

➁在留外国人労働者は2023年10月(厚労省統計)約204万人(前年比約22万人増12%増)で、過去最高だった
が、その割合は日本の全就業者数約6780万人の約3%である。その内訳は1位がベトナム人で約51.8万人(前年比12%増)、2位中国人39.8万人、3位フィリピン人22.7万人。

Ⅵ.外国人材に関する今後の予測および「外国人材共生支援基本法」(仮称)の必要性

本政府は、特定技能の大幅人数増や特定二号(家族同伴可)を推進しており、また、外国人材受け入れ施策を幅広く実施するなど、実質、外国人材の定住化・永住化に向けて「なし崩し的」に動いて今や、「外国人材共生基本法」(仮称:議員立法)を整備し、外国人材を受け入れる「理念や目的」について、国家の意思を明確にすることが必要な時期に来ていると思う。その法律では、外国人材を受け入れる「理念」に加えて、日本政府や地方公共団体の責務、外国人材の責務なども触れられるべきだと思う。

以上、日本とベトナム、ベトナムと中国の関係を歴史的経緯も踏まえて紐解いた上で、「米中覇権争い」の中でのベトナムの立ち位置や、日越関係を強固なものとしていることや、日本の労働力不足に対するベトナムの貢献、人権への配慮に関する日本の課題などについて、大使経験を踏まえて3時間に亘ってお話しをいただきました。
講演後の質疑応答では、中国と同様に共産党一党体制であるベトナムでは自由の寛容度はどうか?等様々な質問が参加者より多く寄せられ、それぞれ丁寧に回答いただきました。

【第54回卓話の時間】日本にとってのベトナムの重要性(Ⅰ)