『寺泊』 水上 勉

暮らしのヒント
60年代の流行推理作家の70年代の純文学小品集

 水上勉(1919~2004)は、1960年代に、松本清張、梶山季之らと共に社会派推理小説の旗手として活躍した流行作家。
 本書は、その水上氏が70年代に入り、純文学的色彩を深め、いくつかの文芸誌に発表した味わい深い小品10作品をまとめた短編小説集である。
 この10作品の冒頭に収められているのが、本書の表題となった「寺泊」(s51年5月号『展望』掲載)。
 本作は、水上氏が、出雲崎に良寛の書簡集を出版したAさんを訪れた帰途、隣りの寺泊に足を延ばし、そこで目にした住人たちの姿を、冬の越後の風土と共にさりげなく描く。
 水上氏の作品としては、『飢餓海峡』、『五番町夕霧楼』、『越前竹人形』などがあまりにも有名であるが『寺泊』は1977年、川端康成文学賞を受賞。なお水上氏は、晩年に「良寛」に関わる著作を3冊ほど残されている。

「見返し」の装画・司修
「見返し」の装画・司修

(会報誌:2022年09月)