生活の中に美を求める心を養う 版画村運動(2/2)

にいがた情報

ふるさとの暮らし 日本の原風景

リポート 清水裕美子(広報委員)

 両津の高橋先生の庭に版画道場が開かれた。先生を慕って全島から集まった人々はここで版画制作の指導を受けるとともに、佐渡の来し方行く末を熱いまなざしで語り合った。子どもから農家・漁師のお年寄りまで分け隔てなく指導し、佐渡を「版画の島」にと提唱し、佐渡版画村運動を展開。山の版画村、海の版画村を初め、全島に版画グループを誕生させ、84年この集まりが「社団法人佐渡版画村」として生まれ変わり、全国初の版画の美術館がオープンした。同館では版画の展示のほか、島内の親子や島への修学旅行生を対象にした版画教室や催しを行っている。
 86年12月高橋先生は69歳で急逝した。先生が生涯をかけた版画村運動はすでに佐渡にしっかりと根をおろし、着実に大きく育っている。88年、『高橋信一/佐渡版画村 作品集』が後を継ぐ人々の手で刊行された。その後も版画作品の展示は続けられ、97年に全国生涯学習フェスティバルにおいて文部大臣感謝状を受けるなど、その運動は高く評価され続けている。
 高橋信一先生は、木版画で数々の賞を受賞した版画家であると同時に優れた教育者でもあった。常に創作の場を故郷佐渡に置き、佐渡の豊かさ、佐渡の美しさを語り、佐渡を描くことを勧めた。究極の地域振興ともいえる壮大なプロジェクト「版画の島」を成し遂げて亡くなられてから30年あまりが経った。様々な表現技術が確立された現在、これから先に続く展開に多くの期待が寄せられている。
 10月号の市町村だよりの中で同館を紹介した。その後、YouTube であらためて大川集落の版画活動を拝見し、深い感銘を受けた。集落の過疎化と高齢化は進んでいる。しかし一方、若い人々が版画村運動を知り、国内外から現地を訪ねている。
 高橋信一先生が提唱した島民による地域づくり運動と佐渡島のゆたかな美しさに心ひかれる。この運動が長く継承されるように願っている。

〇参考
サントリー地域文化賞、受賞者活動動画「地域文化チャンネル」、ブログ「地域文化ナビ」、
フォトレポート「地域は舞台」
〇著書
『佐渡名所百選』(51年 新潟日報事業社)、『高橋信一の世界』(58年 教育書籍)、
『佐渡版画村作品集』(59年 教育書籍)、『捨てない教育』(59年 渓水社)他

一般社団法人佐渡版画村の中川理事長からメッセージ
現在会員は80人。佐渡にいらした折には版画村へぜひ足を運んでいただけたらと思います。

問い合わせ先
一般社団法人 佐渡版画 〒952-1533 相川米屋町38-2
理事長 中川順子 ☎0259-74-3931

アイキャッチ画像:さど観光ナビ
(会報誌:2021年12月)