石井正一
内閣府戦略的イノベーション創造プログラム
SIP革新的深海資源調査技術プログラムディレクター
年々深刻化している地球温暖化は、今までに人類が経験したことも無いような気温上昇や集中豪雨や干ばつによる砂漠化現象など様々な気象異常を世界中で引き起こし、二酸化炭素ゼロエミッションをベースとする持続可能な社会の実現を求める声は益々大きくなってきております。
とりわけ、その中核を担うこととなる電気自動車(EV)やロボット産業においては、高機能モーターやそれを支える効率的な磁石が求められております。
レアアースは産業界のビタミンとも言われ、それらの製造にとって不可欠な重要資源ですが、日本を含め世界のレアアースの供給は特定の国に大きく依存し、極めて不安定なサプライチェーンとなっています。
このように重要なレアアースが日本の排他的経済水域(EEZ)の深海底に存在し、供給可能性が出てきたため、4年前の2017年4月から、「日本の未来は深海にある」とのスローガンを掲げて、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムSIPである「革新的深海資源調査技術」プログラムが、第1期に続きスタートいたしました。
3年間の精力的な調査研究の結果、日本の排他的経済水域である1,900㎞離れた南鳥島周辺の6,000mの深海には、産業的生産が可能とされる規模のレアアース資源が存在することが明らかとなり、より一層の詳細な資源量調査と深海のレアアース泥を解泥、採泥し、船上まで揚げる生産技術の一日も早い開発が求められています。
また、レアアースの資源量調査と同時に、海洋における効率的な資源調査や継続的な海洋環境モニタリング調査などを実現する課題についても、複数機の無人海洋ロボットAUVや海中充電を実現する深海ターミナル技術の開発なども、コロナ禍で従前の業務が制限される中、幾つもの世界初の成果をあげながら、着実に進めています。
「将来の産業化に向けた深海資源の調査・生産への挑戦」
世界的に必要不可欠となっている重要資源であるレアアースを、日本の深海から供給可能とすること、また5Gの世界を陸上と同じように海洋でも実現することによる技術開発の測り知れない可能性から、「日本の未来は深海にある」と私どもは考えています。
特に、排他的経済水域の面積が世界第6位、深さを含めた体積では第4位の無限の可能性を秘めた海洋を有効活用することは、今後の日本の発展に貢献できる極めて重要なプログラムであると考えます。
日本を取り囲む排他的経済水域の深海底には、豊かな鉱物資源としてのメタンハイドレート、熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガンモジュール、レアアースなどが存在していますが、水深6,000mもの深海底からのレアアース泥を含む海洋鉱物資源の産業化に向けての採取は、世界で初の挑戦でもあり、多くの解決すべき困難な技術課題を抱えています。
そのため、プログラムは9府省と4国立研究機関のもと、民間企業、大学と共に連携しながら調査研究を進めています。深海資源の将来の産業化に向けた調査・生産への挑戦は、世界に先駆けて、深海底に賦存するレアアース泥等の鉱物資源に関する深海資源調査技術を段階的に確立・実証し、民間企業への技術移転を始めとする社会実装を進め、将来を見据えた産業化モデル構築に道筋をつけることを出口戦略としています。
最終年度となる今年から来年にかけてのプログラムは、3,000m実海域からの揚泥試験、6,000m級の深海無人ロボットAUV導入による音響調査、AUV5機による隊列制御自動運転の実現、水深2,000m実海域での深海ターミナルでの海中充電の実現、長期にわたる環境モニタリング調査などを成功させると共に、南鳥島の深海から採取したレアアース泥から精製されたレアアースを、最終製品の一つである高機能磁石への試験利用を実現するなどの調査研究を進めてまいります。
日本の未来のため、当プログラムへの皆様方の一層のご理解とご支援をお願い申し上げ、海洋SIPの概要紹介とさせていただきます。(会報誌:2021年9月)
石井正一
略歴:出雲崎町出身。1973年新潟大学卒。
石油資源開発(株)入社。同社代表取締役副社長、2008年日本CCS調査(株)、2014年日本メタンハイドレード調査(株)、福島ガス発電(株)、福島フェニックス発電(株)を設立し、代表取締役社長を歴任。
2016年~2018年内閣府SIP「次世代海洋資源調査技術」PD代行。
2018年から内閣府SIP「革新的深海資源調査技術」PD、日本CCS調査(株)、日本メタンハイドレート調査(株)顧問。