なぜ、植物は五千年も生きられるか

暮らしのヒント

羽賀 正雄 氏(東京やまと会顧問)

生物にとって寿命とは何か?
動物で一番長寿なゾウガメは150~200年といわれています。屋久島の縄文杉は樹齢7200年ともいわれ現在も健在です。(現在では4000~5000年が有力)

山高神代桜は、推定樹齢1800年で今なお花を咲かせています。その幹を見ると大きな空洞(ほら)になっており、樹木は中心部が腐朽しても、周辺部があれば生きられるのでないかと推定できます。(図1)

図1 山高神代桜(山梨県)幹周10cm(出展:日本一の巨木図鑑・文一総合出版)
植物と動物の違いとは?

植物と動物の違いは何か?
単純には、植物は動かず、動物は動くことです。この違いは生きていくために不可欠なエネルギー(食物)を、植物は光合成を行い自らつくり得るが、動物は植物を通じて得ていることによります。植物は光合成を行うための二酸化炭素を葉から、水を根から吸収しており、動く必要がありません。このため、植物体は葉・茎(幹)枝・根と極めて単純になっています。これに対して動物は食餌と水を求めて動かねならず、複雑な形態・分化した器官を有しています。

植物といっても長寿なのは樹木であり、草の寿命は短い。樹木は先端にある成長点から新しい枝と根が伸びていく(一次成長)と同時に、幹や枝や根も太っていきます(二次成長=以下肥大成長という)が、草本は一次成長のみです。

幹の横断面(木口面)を見ると、木部と樹皮に大別され、木部は内側に赤褐色な心材、外側に白色の辺材があります。樹皮は外樹皮と内側の師部(内樹皮)とに分かれます。さらに木部と師部の間に肉眼では観察できない形成層があり、活発な細胞分裂が行われ、その内側(木部)に新しい細胞が付け加えられ、順次木化して肥大成長が続けられるのです。(図2)

重要なのは心材の細胞は死んでおり(死細胞)、辺材は生きた細胞(生細胞)と死細胞より成っていることです。樹木は、肥大成長により外側へ外側へと木化しながら太くなると同時に高く伸び、その際に心材化により生きた細胞は形成層周辺の新たな細胞のみとなります。このことによって生存のためのエネルギー、水分等の補給を最小限に抑えています。また、動かないため、動物に比べエネルギー消費が少なくて済みます。

図2 幹の横断面〈木口面〉

樹齢100年の樹木には、100世代に渡る家族が同居しており、樹皮は樹齢相応な様相であるが、成長を司る形成層は常に若々しく、葉は1~3年でリニューアルされています。

一方、動物は動くためには、新陳代謝により古い細胞は排泄し新しい細胞を維持しなければなりませんが、その機能は加齢とともに衰えます。そして、動きやすい形態や器官、さらには呼吸・消化・血液循環機能(心臓)をコントロールする脳・神経組織が発達していますが、それらの一つが損傷するだけで死にいたります。

以上を要約すると「樹木が長生き出来るのは、必要なエネルギーを自ら生産し、肥大成長・木化によって、生細胞を最小限にしてエネルギー消費を抑え、かつ死細胞を蓄積して強固な樹体を構築していること、樹体の器官・構造が単純化され、損傷に対する抵抗力や再生力が大きいことによる」といえます。樹木は、肥大成長・木化することで、多くの恵みをもたらしています。

地球上に樹木が成育せず草のみと仮定すると現在の「緑に地球」そして人類の繁栄は無かったものと考えられます。このような樹木も乱伐、山火事、大気汚染などには耐えられません。大切にしたいものです。

(会報誌掲載:2018年3月)