遠藤 哲夫
十一月三日(文化の日)を中心に、神社・公園等各地で菊が目に付く。
菊は短日性の植物で、日照時間が短く成ったことを知り花を咲かせる。一般に菊は、文化の日を中心に満開になる事から、各地の菊花展はその頃開催される。
私の現在住む家の斜め向かいに、同じ新潟出身の九十歳を過ぎたおじいさんが住んでいて、以前は朝早い散歩が日課で、散歩の帰りに『オーイ、今年の菊は出来具合どうかね。ちょっと見せてくれ』と栽培場を一回りして『今年も楽しみにしているよ。市役所前公園に見に行くからな』と少しプレッシャーをかけられる。
菊作りを趣味としたのは、新潟に住む義父から五号鉢に植えた福助作りの鉢を貰った時から始まる。福助作りは、菊の作り方のひとつで高さ四十五センチ、鉢は五号と決められた作り方で、全体の形が福助を思わせる、頭(花)は大きく、胴(茎)は短くずんどうが良しとされる。
盆栽菊、千輪咲を除けば菊は、一年のサイクルで作られる。一年間菊作りには何かしら仕事が有る。スタートを苗作りに置けば、四月がスタートとなる。七月までに三回、鉢替えを行う。鉢替えは育てている菊が、根を鉢一杯に張らせる様にと、順次大きな(現在植えられている鉢より二号大きな)鉢に替えていく。七月には本鉢(花を咲かせる鉢)に植える。菊は伸びるに従って支えに結ばないと、自分の力で立っていることは出来ない。八月終わりに蕾が出る。一番良い蕾を一つ選び、それを育てる。ボールのように咲く厚物と言われる種類は、十月一日に蕾の薄皮が切れていれば、十一月三日頃の菊花展に出品する時はほぼ満開となり、審査には良い成績が予想出来る。
菊花展に出品する事を、『嫁に出す』という人もいる。毎日水をやり、消毒をし、花びらを直し、日当たりを調整し、愛情を注げば、菊は裏切ること無くきれいに咲いてくれる。一番きれいになった菊を展示場に出すので、手塩にかけた菊を嫁に出す気持ちになり『菊作り菊見るときは陰の人』と、栽培者は自分の作った菊が誉められるのを聞くと、本当に嬉しいものだ。菊が展示場から戻ると、来年の苗用に残す鉢には『今年はありがとう。良く咲いたね』と土・輪台・支柱に分け、整理する鉢と区別し片付ける。
十二月になると、山は紅葉した葉が落ちる。楢なら・檪くぬぎ・欅けやきを中心に集め、来年用に発酵させて腐葉土にする。この腐葉土に赤玉土・鹿沼土・パーライト・クンタン等、栽培者が各自の経験で自分の栽培場に適した培養土を作り、来年に備える。肥料もこの時期に作っていたが、今は専門業者が作る肥料が品質も良く、良い結果が出ているのでそれを使っている。四月がくると苗作り。と菊作りのだいたいのサイクル。
菊作りは健康だと良く言われている。菊に合わせた早寝早起きがそうさせてくれると信じ、これからも菊作りを続けるつもりだ。
(2016年2月 遠藤 哲夫)