故郷の新・旧二つの「お祭り」

暮らしのヒント

樋口 高士

Ⅰ、私の「祭り」の原点故郷の総鎮守の「お祭り」

 初夏の候。早くも”はしりの夏祭リ”が各処で始まる。どこからともなく祭囃子の音が流れてくると、いつものことながら、私の想念は、幼き日の「故郷のお祭り」へと戻っていく。
 私の故郷・十日町市の総鎮守「諏訪神社」(承徳1097鎮座)。神殴は、私たちが通った小学校の校門に向かう道の少し手前右側から参道の石段を昇った山の上にあった。私たちは物心つく頃から「すわさま」と呼んで親しんでいたのだが、代々の神官佐伯家には同級生がおり、中学時代には神官ご自身3年1組担任の「佐伯先生」でもあつた。
 諏訪神社の祭り「おおまつり」は、8月25~27日。古くから「尾花まつり」とも呼ばれていた。
 25日宵の灯篭祭から始まり、人角神輿の練り歩き、俄(にわか)の芸者衆の踊り、神殿前の奉納相撲、夜店…と、「おおまつり」は本当に心ときめくものだった。
 毎年8月に入ると、夜、祭囃子の奏楽の稽古の音が、神社の山裾の我が家にも聞えてきて、祭りが近いことを感じさせるのだった。
3年前のこと。久しぶりに懐かしき「おおまつり」をじっくり堪能することができた。これは、その時の目的・故郷の新しい祭り「大地の芸術祭」への参加に付随して生まれたこと。

Ⅱ、故郷の里山の「お祭り」「大地の芸術祭」

「大地の芸術祭」は、2000年の第1回以来、3年毎の開催。3年前の2015年(会期7/26~9/13)は第6回目。この時、私の中で、新・旧二つの故郷の祭りが交差したのだった。
 諏訪神社の神段のある台地の裏手の、さらに上の森は、かって私たちがよく探検に出かけた処。この森の中に私の好きなアーティストによる、寒冷紗を素材とする作品(杉浦久子+杉浦友哉)(=写真・筆者撮影)があったからである。


Photo by Takaichi Yamamoto

越後妻有アート・トリエンナーレ「大地の芸術祭」

 大地の芸術祭は、越後妻有地域(十日町市・津南町) の広大な里山(東京23区より広いエリア)で、野外現代美術展を開催するもの。TRIENNALEと呼称されているように3年毎の開催。ちなみに妻有TSUMARIとは、中世の頃、この地域を「妻有庄」といったことからとか。

 大地の芸術祭は、1990年代後半、県の施策の方向性の中で、アートディレクター・北川フラムさん(1946~高田出身)が、構想・提案・「大地の芸術祭」という秀抜なネーミングも手掛け、第1回から一貫して総合ディレクターを務める。当初は、モダンアート、野外展示…といったことが、行政、地元側には違和感もあり、反対もあったと聞く。
 たまたま当時、私は、渋谷桜ケ丘の「アート・ゾーン」のような一角を拠点として活動していたフラムさんとは若干の面識もあり、彼の発行していた雑誌などで、その並々ならぬ才能を感じていただけに、その発想の新鮮さに、強い賞賛の念を抱いたことが思い起こされる。
「芸術祭」は、フラムさんの国際的なアート人脈に連なるイリヤ&エミリア・カバコフの『棚田』(第1回作品・松代の棚田に恒久設置)などが牽引車となり、過疎化の中で廃校となった学校の有効利用なども加わり、着々と形を整え、今や、国内屈指のアート・イベントとなっている。

『大地の芸術祭』2018年7月29日(日)~9月17日(月)

 今年の一大地の芸術祭』は、間もなくやつてきます。自然豊かな奥越後への「旅」の魅力。緑の里山で国際的な「アート」に接する喜び。豊富な妻有の「食」の魅カ――いまや、若者層はじめ広い層から大きな支持を頂いているこの新しい「お祭り」。故郷にいまも思いを馳せる老生にとって、うれしい限りである。

(2018年7月 樋日高士)