にいがた『歯』の見どころ・味わいどころ

暮らしのヒント

寄稿者:小峯亜由美(小峯歯科クリニック・東京新潟県人会会員)

新潟県人会のみなさまこんにちは、私は村上市出身(村上高校、新潟大学歯学部卒業)、現在都内で歯科医師をしております。故郷の「にいがた」に思いを馳せながら歯にまつわることを少しばかり書きたいと思います。

遡ること二十数年前、私は大学の授業で日本歯科大学新潟歯学部 (現 新潟生命歯学部)『医の博物館』を見学する機会に恵まれました。こちらは日本初、また唯一の医学博物館として平成元年(1989)9月に浜浦町にある歯科大のキャンパス内に開館された博物館です。歴史的資料(史料)を通じて医学史を教育研究し、史料を一般公開することにより学術文化に寄与することを目的とされ、歯科のみならず医学や薬学に関する史料(15世紀から現在に至る東西の古医書、浮世絵、医療器械器具、薬看板、印籠など)約5,000点が展示、保管されています。貴重な興味深い展示物がいくつもありますので、まだ行かれたことのない方はぜひ訪れてみてください。

なかでも、木床義歯(もくしょうぎし)は必見です。日本では、近代歯科医学の祖であるフランスのピエール・フォシャール博士(1678~1761)が活躍する時代より200年以前に、上顎に吸着する木の義歯が製作されているのです。この木を土台(床)とした日本固有の総義歯は、上顎の形態に適合する義歯をつくれば脱落しないというもので、これは現在の総義歯の原理でもあります。
実際に実用化され、普及したのは江戸時代後期の19世紀初頭からですが、蜜ロウで歯ぐきの型を採り、それに合わせてツゲの木を彫って土台(床)を作り、前歯にはロウ石や象牙を用い、奥歯の部分には噛めるよう、鋲(ケンピン)を打ってあるのです。食紅を使って調整したり、上唇小帯の部分などは削りとってあったり、人工歯の前歯を入れられるように溝を彫り、最終の仕上げには、木賊(とくさ)やサメの皮で研磨して表面を滑らかにしたりと、日本人の創意工夫満載だなぁと今も感激します。

また、歌川国貞や豊原国周らによる多数の浮世絵コレクションも見ものです。
お歯黒(江戸時代から明治中頃までの既婚女性の歯を黒く染める風習)姿の美人画や房楊枝(江戸時代の歯ブラシ、平たい部分は舌ブラシ、尖った部分はトゥースピック)を手にする姿を描いていて、当時の口腔衛生を知る貴重な資料と言えます。

さて、私の出身地村上市は「北限の茶どころ」としても知られています。いくつかの製茶園があり、明治期にはニューヨークやウラジオストクに輸出もしていたほどお茶の生産が盛んなところです。ご存知の方も多いと思いますが、お茶は古には薬として服用され、いろいろ効能があります。飲むお茶に含まれるカテキンには、含有量が多い順にエピガロカテキンガレート(59%)、エピガロカテキン(19%)、エピカテキンガレート(13%)などがあり、特にエピガロカテキンガレートという物質は強い抗菌作用があります。
これらのカテキンは口腔内の細菌が歯につくのを防いだり、細菌の増殖を抑えたり、虫歯菌が酸を産生するのを抑える効果や、揮発性硫黄化合物(VSC)などの口臭の原因物質と結合することで消臭効果を発揮し、口臭予防になります。そして、飲むお茶の中にはフッ化物(0.5~0.7ppm)も含まれていますので、う蝕(虫歯)予防効果が期待できます。
ペットボトルで簡単にお茶を飲める時代ですが、急須で丁寧に淹れた村上茶を一服、歯の健康に役立てるのも口福ではないでしょうか?ありがたいことに今は便利な世の中ですから、通信販売でも村上茶は購入できます。現地で楽しみたい方は、九重園さん、茶館嘉門亭さん、茶寮サカエイさん等に足をお運びいただければ五感も喜ぶひと時を過ごせます。

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