安寿塚(佐渡市)

にいがた情報
海辺にのこる小さな赤い祠

 森鷗外の『山椒大夫』で知られる安寿と厨子王の物語。小説では安寿は弟のために自ら命を絶ち、逃げ延びた厨子王はやがて身を立て、母をたずねる。そしてとうとう、唱えながら鳥を追う盲目の老婆に出くわす。

安寿恋しや、ほうや れほ 厨子王恋しや、
ほうやれほ 鳥も生(しょう)あるもののならば 疾う疾う(とうとう)逃げよ
遂(お)わずとも

厨子王の目から涙があふれ、母の前に倒れこむ。いつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。女は目があいた。「厨子王」という叫びが女の口から出た。二人はぴったり抱き合った。
 佐渡にはまた違う伝説の残る地がいくつかあり外海府の鹿の浦はその一つ。海辺に今もひっそりと塚がのこります。
(会報誌:2021年11月)