株式会社よしかわ杜氏の郷

にいがた情報
越後杜氏の隠れ郷

吉川杜氏が造る「本当の地酒」銘酒『よしかわ杜氏の郷』 5月23日(火)午前10時、宿泊した高田駅前のホテルから友人の車で、新潟県上越市吉川区杜氏の郷にある県道30号線(新井柿崎線)の「道の駅・よしかわ杜氏の郷」に向かう。

広大な水田に続き、「県立大潟・水と森公園」とその周辺の巨大な溜池群がピラミッド型の山頂部を持つ米山を映す絶景の中を進む。まもなく大きな案内標識があり、到着だ。施設の広いスペースに駐車車両は少なく、売店も開いていない。イベントが無い時はドライバーの休憩専用のようだ。その一角に立派な建物があり、看板には「よしかわ杜氏の郷」とある。

美濃川企画課長と小池善一郎杜氏に色々話を聞いた。

日本で唯一の市営酒蔵

海外でも公共の修道院などがワインやリキュールを作っているが、極めて少ない。吉川が何故世界でも珍しい市営の酒蔵なのかを知るには越後杜氏について語らねばならない。

越後杜氏の系譜

越後杜氏とは、日本酒を造る代表的な杜氏集団の一つで越後流と称され、昭和33年当時の杜氏登録者数は900名を上回っていた。
越後杜氏は次の三つの派に分かれる。

①三島杜氏
 ・野積杜氏
 ・越路杜氏

②刈羽杜氏

③頸城杜氏
 ・吉川杜氏
 ・柿崎杜氏

杜氏の数の減少が著しい近年だが、まだ250名を超える杜氏がおり、全国21都道府県で酒造りに携わっている。一方、平成元年に79名だった吉川杜氏は平成22年にはわずかに11名になってしまった。

巨大な杜氏記念碑


杜氏の功績を讃えて建てられた杜氏記念碑が吉川区に九基が確認されている。最も古いものは明治37年の建立であり、新しいものは昭和29年の建立だ。ところで、何故高さ5メートルもの巨大石碑を蔵元は杜氏に贈るのだろうか。
「杜氏」とは、その蔵の酒造りの全責任を負う立場にあり、蔵人をまとめ、現場を管理する統率力や判断力、管理能力に優れた人格者であることが求められた。かつての酒造りは、経験と勘が頼りの特殊な技能のため、酒の出来の良し悪しは、杜氏の力量にかかっており、その年の酒の品質が蔵元の存続にも大きな影響を与えた。吉川杜氏の技は、一流とされ、多くの清酒品評会で高い評価を受けた。蔵元は長年のこの功績を讃え、巨額を投じて巨大な石碑を製作し、杜氏に贈った。

高校生の作る幻の酒「若泉」


尾瀬あきらのマンガ・『夏子の酒』で全国に紹介され、一躍有名になった県立吉川高校醸造科が1986年(昭和61年)3月31日で閉じた。吉川高校の醸造科は1957年(昭和32年)に全国で4番目の高校醸造科としてスタート。しかし、全国で5箇所あった醸造科は次々と閉科され、地域住民との強い連携に支えられて最後まで残ったのが、この町にある醸造科であり、1,393名の卒業生を社会に送り出してきた。前述の『夏子の酒』では吉川高校醸造科の2年生が実習で作る酒として、「吉川高校若泉」が登場する。高校では毎年、4本のタンクに仕込みを行っていた。

仕込み一号:普通酒
仕込み二号~三号:本醸造酒
仕込み四号:増醸酒

使用酵母は協会十号で麹米は「五百万石」、掛け米は「トドロキワセ」を使用していた。

日本で一番新しい酒蔵誕生

日本酒のメッカ「吉川の郷」、とりわけ伝統ある吉川高校醸造科の閉校への流れの中、卓越した酒造りの技術を郷土の貴重な文化として長く伝えるべく、第三セクター「蔵元」創設案が検討された。そして、伝統文化としての酒造技術の向上を図り、酒の郷づくりを目指し、蔵元「よしかわ杜氏の郷」が50年ぶりに蔵元認可された。
平成12年には、わが国で最も新しい蔵として開業し、約65キロリットルの酒を出荷した。製造能力は千石(約180キロリットル)である。酒米は新潟の酒造好適米としては一番の「五百万石」の吉川産だ。仕込み水は尾神岳の伏流水をタンクローリーで運んでいる。この水はブナ林に蓄えられ、自然の清らかさをたっぷり含んだ水で、源流では年間を通じて摂氏8度という冷たさで雑菌が無く無色透明で酒を劣化させる鉄、マンガンが少ない等、酒造りに最適である。現在、上越市の三セクとして運営されている酒蔵だから、社長は副市長が務めている。副市長が一所懸命酒の販売をしていると言う訳だ。

新しい文化?車中泊のメッカ道の駅「よしかわ杜氏の郷」

「道の駅 よしかわ 杜氏の郷」へのアクセスは、北陸自動車道、柿崎ICを降りて国道八号線を上越方面に進み、交差する県道30号線を左折して約3㎞、県道338号との交差点「長峰」に隣接している。県内でも交通量が多い国道八号線から県道30号に入ると、すぐに田園風景に囲まれた直線道路となり、周辺地域の人以外はあまり足を運ばないような場所にある。一般に、道の駅と言えば物産即売所などで混雑しているイメージがあるが、ここは特別なイベントがある日を除くと、普段は駐車車両もほとんど無い。

その一角に蔵元「よしかわ杜氏の郷」がある。また、県道を挟んだ反対側に第三セクター「J―ホールディングス」が運営する、日帰り温泉の長峰温泉「ゆったりの郷」と「レストラン味彩」がある。
レストランで昼食を食べたが、非常においしく安かった。常連と思える近所の住人が数組食事をしていた。小上がりを含め、80席と広く、各種定食、めん類、丼物など豊富なメニューが用意されていた。
そんな訳で、メインの施設である「観光酒蔵」に加え、天然かけ流しの本格温泉、安くておいしい食堂、広大かつ常に空いている駐車スペースにトイレ、これらに目を付けたドライバーの多くが今、ここを宿泊所(車中泊)として利用しているそうだ。
本格的なキャンピングカー、ワゴン、乗用車、大型トラックと車種は多彩で、大型バイクのライダーも簡易テントを使って宿泊しているという。首都圏周辺の道の駅では歓迎されない車中泊ドライバーもここでは大歓迎の様だ。ここの日帰り温泉施設は一流旅館顔負けの素晴らしい施設で、大浴場や露天風呂もある。三セクだから料金も600円と良心的で、午前10時~午後9時まで営業している。

◆「よしかわ杜氏の郷」の酒

新潟県下最大の酒米産地、吉川産の酒造好適米「五百万石」と、契約栽培による「山田錦」を使用した、生産者の顔が見える「こだわりの米」から醸された「うまみのある酒」。
春夏秋冬、脈々と流れ出るブナ原生林の伏流水が織りなす「清らかな酒」。歴史ある清酒のふるさとから生まれた「300年の越後杜氏の技」が冴え渡る「本物の酒」と酒の説明書に書かれている。
一方、酒蔵の経営は単年度黒字も実現していないと聞く。これだけの施設、原材料、技術を使ってペイしないということは価格設定が安すぎることがその一因かも知れない。ひょっとしたら、日本で最も、お徳用の日本酒かも知れない。試飲してみたが実にうまい酒だ。そのうち大ブレークしそうな予感を感じさせる酒蔵だ。

(2017年10月:和久井 博)

アイキャッチ画像:株式会社よしかわ杜氏の郷

株式会社よしかわ杜氏の郷

新潟県上越市吉川区杜氏の郷一番地
☎:025-548-2331

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