【第66回卓話の時間】7月の卓話の時間

会の活動報告

卓話者:寺島実郎 氏
日時:令和8年7月15日(水)
場所:上野精養軒

寺島実郎氏といえば、テレビの報道・情報番組などを通じて、国際政治や世界経済の大きな流れを、豊富な資料と独自の歴史観から読み解く論客として知られています。

寺島氏は1947年に北海道で生まれ、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程を修了後、三井物産に入社しました。米国のブルッキングス研究所への出向、ニューヨーク本店勤務、ワシントン事務所長などを歴任し、その後、三井物産戦略研究所所長・会長、日本総合研究所理事長などを務め、現在は日本総合研究所会長、多摩大学学長、寺島文庫代表理事として精力的に活動されています。新潟市の政策アドバイザーを務めた経歴もあり、新潟との関わりも浅くありません。

また、長年にわたり、テレビやラジオへの出演、新聞・雑誌への寄稿、数多くの著書を通して、国際情勢から日本政治、皇室の問題に至るまで、幅広いテーマを取り上げています。最近の発言では、世界が「米国を中心とする秩序」から大きく変わりつつあるとの認識を示し、イランをめぐる情勢や米中関係、日本政治の「沈黙と危うさ」に警鐘を鳴らしています。

寺島氏の政治的立場は、特定の政党や一時的な風潮に寄り添うというよりも、世界の構造変化を冷静に見つめながら、日本の進むべき方向を問い続ける姿勢にあるといえるでしょう。

今回、東京新潟県人会の催しで、寺島氏の講演を直接拝聴したが、テレビ画面などを通して知る印象そのままに、講演では膨大なデータの資料集を駆使しながら、個々の出来事や大きな流れの中に位置付けていきました。そのお話を聴きながら、私たちは日々の流れてくるニュースを「知っている」だけで、その背景にある歴史や相互のつながりまで、本当に理解しているのだろうかと考えさせられました。

寺島氏は冒頭、「経営とは時代認識である」と述べ、「個人、企業、行政のいずれにおいても、感覚や印象に頼るのではなく、客観的な数字に基づいて時代を捉えることが重要だ」と強調しました。

まず、日本人の海外渡航やパスポート保有率の低下に触れました。外国人観光客が増える一方で、日本人は海外へ出なくなり、「内向きの日本」「第二の鎖国」ともいうべき状態に陥っていると指摘しました。円安によって海外旅行や留学が難しくなったことも、日本人が世界を見る機会を狭めていると述べました。

次に、世界のGDPに占める割合を示しながら、日本の経済力が低下している現状を説明しました。日本は1990年代には世界経済の大きな部分を占めていましたが、現在ではその比率が大幅に縮小しています。その一方で、中国、インド、台湾をはじめとするアジアの国や地域は、急速な成長を遂げています。

日本の財政については、赤字国債の増発と日本銀行による国債の大量保有、安易な「積極財政」は円の信用を低下させ、さらなる円安を招くおそれがあるといいます。消費税減税などの一時的な対応だけではなく、産業力を高め、円の価値を回復させる根本的な政策が必要だと話されました。

さらに、日本の産業力がこの25年間で衰えてきたことにも触れました。鉄鋼、セメント、自動車などの生産が減少し、大規模な国家的プロジェクトも少なくなっていること、企業が設備投資や人材育成よりも、内部留保、配当などを重視するようになった結果、産業の成長力が弱まったと指摘しました。

講演の終盤では、現代社会が『産業資本主義』『金融資本主義』『デジタル資本主義』という三つの力の間に置かれていること、金融とデジタルの力が強まるなか、日本がDX、AI、半導体といった先端分野を追いかけるだけでは再生にはつながらないと述べました。

日本が進むべき方向として寺島氏が示したのは、日本固有の技術や現場力を生かし、医療、防災、食料、文化、教育など、国民生活の安全と豊かさに直結する分野を産業として育てていくことでした。

最先端技術を追うだけではなく、既存の技術を組み合わせて社会の課題を解決することも、重要なイノベーションであると説きました。

今回の講演が私たちに訴えていたのは、過去の成功体験や「日本はまだ豊かである」という思い込みから離れ、客観的な数字に基づく「時代認識」を持つことの大切さです。

日本の再生には、物をつくる技術や現場の技能、そして医療、防災、食料、教育などを重視し、自ら価値を生み出す「産業力(ファンダメンタルズ)」を強める必要があること、また最後には自分自身の考えを持つことの大事さを語って講演を終了しました。
(参考:寺島文庫/会報誌:2026年9月号掲載)

卓話者プロフィール:寺島実郎

1947年北海道生まれ。
早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産株式会社入社。
調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所に出向。
三井物産ワシントン事務所長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所所長、同会長、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を歴任し、現職。

著書に「世界認識の再構築 17世紀オランダからの全体知」(岩波書店)、「21世紀未来圏 日本再生の構想」(岩波書店)、「ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論」(NHK出版)、「人間と宗教 あるいは日本人の心の基軸」(岩波書店)、等多数。また、TBS系列「サンデーモーニング」(日曜日8:00〜/月2回程度)、TOKYO MX「寺島実郎の世界を知る力」(毎月第3日曜日11:00〜)など、メディア出演も多数。