第48回卓話の時間「新しいお金・デジタル通貨って、どんなお金?」

会の活動報告

卓話者:中條 誠一(中央大学名誉教授・東京十日町会会員)
日時:7月11日(火)
場所:ふれあいふるさと館(県人会館)3階会議室

夢の通貨「デジタル通貨」を専門家が優しく解説

いよいよ、日本でも「夢の通貨」などともいわれるデジタル通貨を日銀が発行することが、現実味を帯びてきました。それに備えて、それはどんなお金なのか、私たちの生活がどう変わるのかを、経済や金融の知識のない人でも理解できるように、易しく、面白く語っていただきました。

今回の卓話者・中條誠一氏は、1949年新潟県川西町(現在は十日町市)生まれ。1973年に中央大学大学院修士課程を修了し、(株)日商岩井(現・双日)に入社。約11年間、同社調査室のエコノミストとして勤務した後、大阪市立大学商学部助教授・教授を経て、1996年中央大学経済学部教授に就任。2019年に退職し、現在は中央大学名誉教授。長らく、国際金融や通貨の研究に携わってきましたが、最近は一般の方々向けの市民講座や講演に力を入れられています。

今回「卓話の時間」にお招きし、次のようなお話をいただきました。

第48回卓話の時間1
卓話者・中條 誠一氏

ペイペイはお金ではないが、デジタル通貨はお金そのもの

まず初めに、何がお金で、「デジタル通貨」とはどんなものかから始めたいと思います。現在発行されているお金は、現金と預金の2つしかありません。そこに、新たに第3のお金として出てきたのが、「夢の通貨」と言われるデジタル通貨ですが、手に取ることができないので分かりにくいかもしれません。
そこで、具体的にイメージいただくために、まず今お買物の支払いに使っているクレジットカード、電子マネー、スマホの決済アプリなどとの違いからお話します。皆さんはこれらをお金と思っているかもしれませんが、それは間違いです。

現金と預金という2つのお金は、今日のようなスピード社会では、あまり使い勝手がよくありません。現金は手渡さなければいけませんし、預金となると銀行に行って口座振替をしなければなりません。その不便さを軽減し、お店でスムーズにお買物ができるように、こうしたものが使われているのです。

確かにデジタル化が進み、ペイペイなどはお金と勘違いしかねません。しかし、よく考えてみてください。私たちがペイペイでピィピィとして、お買物をしたとしても、それで最終的な支払いはされていません。私たちが事前にチャージすると、ペイペイの発行会社の預金口座にそれがプールされ、そこからお店の口座に預金が振り替えられて初めて、お店は代金がいただけるからです。ペイペイは背後に預金というお金があって、顧客→ペイペイ発行会社→お店へと口座振替を速やかにする役割を果たしているのです。ですから、最終的な支払いをしている預金がお金で、これらはその使い勝手を良くする「お金のようなもの」とでもいったらよいでしょう。

同じデジタル化でも、ペイペイは現金や預金というお金の支払い方法を、デジタル通貨はお金そのものをデジタル化しています。ですから、ペイペイで支払いをする場合には、裏に預金があって、それで口座振替をしなければなりません。しかし、デジタル通貨はそれ自体でお店に支払いを完了することができます。デジタル通貨はお金そのものだからです。もっと具体的な違いをいいますと、ペイペイは特定の加盟店でしか使えません。しかし、デジタル通貨はいつでもどこでも使えます。また、ペイペイは使用料(主に、お店が負担)が必要ですが、デジタル通貨はいりません。お金であるデジタル通貨とペイペイなどの「お金のようなもの」とは、まったく次元の違うものなのです。

いよいよ、新しい第3のお金が誕生

次に、これまでのお金と新しいデジタル通貨を比べてみましょう。現金は説明するまでもありませんので、ともにバーチャルなお金である預金との違いを見てみましょう。
預金というお金の正体は銀行のサーバーの中にある「入出金と残高のデータ」なのです。デジタル通貨と同じく、それでお買い物ができるので「価値を持ったデータ」といいます。

残念ながら、最近まではこれは途中で改ざんされる危険があるため、ネット上でやり取りできませんでした。そこでやむを得ず、多くの人がお金という大事な自分のデータを銀行に預金として預けて、口座振替という方法でやり取りをしてきました。銀行間で受払いの情報(普通のデータ)を流して、受払人の預金口座をプラス・マイナスする方法です。ですから、どうしても銀行が必要だったのですが、このやり方だと手間も時間もコストもかかってしまいます。

ところが、ブロックチェーンという画期的な技術が開発され、改ざんされることなく、ネット上でお金そのものを送ることが出来るようになりました。となると、銀行のサーバーに預けておく必要はなく、自分のパソコンやスマホで管理し、そこから相手とネット上で直接やり取り出来るお金、すなわちデジタル通貨の誕生というわけです。預金と違い、極めて効率的で、銀行の中抜きができる「夢の通貨」といえるかもしれません。

誰がデジタル通貨を発行すべきか

ビットコインに代表されるように、その発行は民間が先行していますが、これは問題だと思います。やはり、デジタル通貨は政府がきちんと発行・管理すべきです。
お金は、便利であるだけではなく、安全、安心に使えなければいけません。民間が発行するとなると、それができなくなる恐れがあります。例えば、密輸や麻薬取引に使用されたり、発行者が信用を失い、その価値が暴落してしまうかもしれません。
また、民間が次々にデジタル通貨を発行すると、政府の金融政策がうまく機能しなくなる危険性があります。さらに、お金を発行すると確実に独占的な利益(通貨発行益)が得られるのですが、そんな特権を一部の民間主体にだけ与えてよいのでしょうか。

それぞれの生活スタイルでお金を選ぶ時代に

そんなデジタル通貨が登場したら、私たちの生活はどうなるのでしょうか。先ほど、銀行の中抜きが可能といいましたが、実際は日銀が発行し全て管理するのは難しいため、銀行を通じて発行(間接発行)することになりそうです。
もちろん日常の支払いにおいて、私たちの選択肢が広がりますが、便利なデジタル通貨によって、ますますキャッシュレス化が進むことは間違いないでしょう。しかし、アナログ人間はいつの世でもいますから、現金がまったくなくなりはしませんが、町のATMの多くが姿を消すことになるでしょう。
預金はどうでしょうか。稼いだお金を全てデジタル通貨にしてスマホで持ち歩く人はいないでしょう。やはり、当面使わないお金は預金として、銀行に預けておくことになると思います。それの方が安心ですし、そういう人がいないと、世の中で余っているお金を今必要なところに回すという金融仲介が滞ってしまいます。預金というお金には、口座振替で支払いをするだけでなく、貯蓄と投資を結びつけるというもう一つの大事な役割があるということです。となると、銀行はその金融仲介をするだけでなく、デジタル通貨の発行にも携わりそうですから、多くが潰れてしまうということもなさそうです。

その預金で素早く支払いをするために、ペイペイなどの「お金のようなもの」を活用し続ける人もいるかもしれません。ただ、デジタル通貨の方がより便利ですから、それに対抗できるように発行会社は使える店を増やしたり、クーポンサービスなどを充実させなければなりません。いずれにせよ、私たちは今以上に自分の好みや生活スタイルに応じて、デジタル通貨が加わったお金や「お金のようなもの」を使い分ける時代になりそうです。

第48回卓話の時間2
参加者一同も「卓話」に参加