代表者 佐藤 俊一(5代目蔵主)
下越酒造の創業は?
明治13年(1880年)に創業し、屋号は「蒲原屋」、家印は、「○(ボーイチ:世の中を丸く平らに真直ぐに、の意味)」です。戦時中は企業整理に遭い、事業を廃業しましたが、戦後の昭和23年4月、企業合同により下越酒造株式会社として再出発しました。故会長(父)、現社長の私の親子2代、国税庁の鑑定官を勤めた経験を活かして妥協する事なく、品質本位の酒造りに精進しています。
銘柄はいつから?
弊社の代表銘柄「麒麟」は創業時に、鎌倉時代の建長4年(1252年)、会津芦名氏が当地津川に築いた山城「麒麟城」より命名。
「麒麟」の酒銘の由来は?
古来より中国では、麒麟は聖人が生まれる様な吉兆時に出現するめでたい動物としてあがめられており、弊社の酒が人生の晴れの席で飲まれる「吉」を呼ぶ酒で在りたいの願いが込められています。ちなみに津川には「麒麟××」と名前の付いた施設、商店、割烹等をいくつかあげる事が出来ます。
会社の方針
弊社の目的とする酒の味の基調は、越後流「淡麗・辛口」です。越後流の意味は、単なる成分上の淡麗・辛口ではなく、味がキレイできめ細かく、香味のバランスが整い、旨味があるが後味スッキリと飲み飽きしない酒を目指している事です。
そのためには、良い原料とそれを活かす確かな技術、微生物の活動を支える清潔な環境、そして製造する蔵人の酒造りに対する熱意と努力、旨酒を搾りあげる喜びを大切にしています。そのためにも温故知新の気持ちでいろいろな酒造りの技術にも挑戦し、醸造技術のレベルアップを図ると共に、新商品の開発にも利用しています。実際の製造面での特徴を記してみます。
奥阿賀酒米研究会の実地研修風景
①米と水
共に酒質に大きな影響を与える大切な要素です。津川にはあちこちに湧き水があり、弊社も以前は井水が主体でしたが、新製造所を建ててから枯れるようになり、現在の主力は阿賀町の水道水(井水)で、すこし硬度の高い水が必要な場合は、新潟県の名水「薬師清水」を汲みに行き使用しています。
一方、新潟県の主力の酒米は早生品種の「5百万石」で、硬質で酒質はきれいで上品で後味のキレが良いが、ふくらみや旨味が乏しい傾向で、新潟の飲み口「淡麗辛口」を支える一因です。
対する酒米は兵庫県が誇る晩生品種の「山田錦」で、軟質で酒質は芳香と豊かな旨味の味幅や余韻があり、両者で日本の2大酒米を形成しております。弊社は地元他社とで「奥阿賀酒米研究会」を組織し、地元農家、農協との協力で良質酒米の生産に励んでおり、使用米は多い順に酒米として「五百万石」(地元)、「山田錦」(兵庫県)、「高嶺錦」(地元)、「越淡麗」(地元)で84%、残りを食米「コシヒカリ」(地元)を使用し、丁寧に平均精米歩合53%台まで自社で精米しています。
②製造工程
最近は高精白米での仕込みが多くなり、洗米はステンレス製苽による手洗い、麹造りも麹蓋や小箱による手仕事、なかんずく搾りは酒袋による酒槽搾りが多くなり、手間暇が掛かるようになったのが頭痛の種ですが、良酒造りには避けて通れないものと、社員一同努力をしているところです。
ほまれ麒麟シリーズ
下越酒造のお酒ラインナップ
従来の「麒麟」に、ラベルを統一した「ほまれ麒麟」、一口目から美味しい「蒲原」と熟成酒があります。
■麒麟
・大吟醸山田錦袋取り雫酒(鑑評会仕様のフラッグシップ酒)
・純米酒(5百万石100%の定番純米酒)
■ほまれ麒麟
・純米大吟醸(山田錦と5百万石の酒を等量ブレンドし、両米の特徴が活きている)
・大吟醸(5百万石によるスイスイ飲めるカジュアルな大吟醸)
・特別純米(山廃純米をブレンドする事で、旨味とコクをプラス)
・蒲原 純米吟醸袋取り無濾過生貯蔵原酒
(フルボディで美味しさを実感、酒米に山田錦、美山錦、五百万石の三種があり、米の差を楽しめます)
蒲原シリーズ
期間・地域限定のお酒
米の本場新潟を代表する、日本一美味しいがその粘りのために酒造には向かない「コシヒカリ」を100%用いた純米大吟醸酒(45%精白)を平成8年頃より発売しております。今のところ、コシヒカリの純米大吟醸酒は自社のみと自負しています。
弊社は昭和50年代より大吟醸酒を低温で3年以上(現在は5年以上)熟成させた「秘蔵酒」という熟成古酒を好評裏に発売しています。その後、常温熟成で長期の熟成が可能な、濃醇な旨味を持ち、しかもワインのように自宅でも熟成を楽しめるビンテージ付の「時醸酒」を開発しました。
「国税局酒類鑑定官」とは
鑑定官とは、国税庁の技術系職員の官職の一つで、全国12の国税局(沖縄国税事務所を含む)に設置され、酒類行政の技術面(旧級別制度に伴う級別審査、各種品質審査、市場調査、酒類製造者への技術支援、また独立行政法人酒類総合研究所との人事交流等)及び課税物品の分析・鑑定(主に酒類、揮発油税関連)を主たる職としています。
新開発商品
農学博士の資格を酒造りにどのように役立てていますか
私は大学で博士課程を修了し、「炭化水素発酵に関する基礎的研究(酵母による炭化水素から有機酸生産に関する生理的並びに生物工学的研究)」で博士号をいただき国税庁に入庁。東京国税局、金沢国税局、国税庁醸造試験所、関東信越国税局を経て、父の会社に製造部長として入り、その後社長として現在に至っております。
大学時代の研究が公務員としての勤めにすぐ役に立つというものでもありませんが、微生物(酵母)を扱っていたことは醸造指導や醸造試験所での研究の礎となり、現場での問題を自主的に解決する事に役立ったと思っています。
職場の人達の意気込みは
時代と共に酒造りの現場にも大きな変化が現れています。従来の杜氏(製造責任者)を頭に季節雇用の技術集団(越後杜氏)に代わり、平成15年頃より弊社も新潟清酒学校卒業生の年間社員を製造部長(杜氏)として、社員による酒造りに転換しました。併せて若手社員を順次新潟清酒学校に入れ、いろいろな資格を取らせ、自発的に、強い団結力で酒造りに邁進しています。
蔵人集合
更なる挑戦(日本酒を世界のテーブルに!)
1997年、海外輸出を考える全国の蔵元約20社で日本酒輸出協会設立に参加し、98年に香港輸出を開始し、順次アメリカ、台湾と広げ、現在10ヶ国以上までに広がっています。可能な限り相手国に出掛け現地ディストリビューターと共に日本文化の普及、和食との相性、さらに相手国料理との相性を訴えながら活動を続けています。国内市場が縮小する中、比較的早くから海外市場に進出出来たことは、大いなる楽しみの一つです。
下越酒造株式会社
新潟県東蒲原郡阿賀町津川3644
☎:0254-92-3211
HP:http://www.sake-kirin.com/
代表者:佐藤 俊一(5代目蔵主)
(文:広報委員 田辺 幸雄 旧東蒲原郡鹿瀬町出身)