【第36回文化講演会】弁護士として「法律の制定・改廃を求めて60年」

会の活動報告

講師:春日 寛 氏(弁護士・東京新潟県人会 相談役)
主催:(一財)東京新潟県人会館/東京新潟県人会(企画:文化委員会)
日時:令和6年2月10日(土)14:00 ~ 16:00
会場:ふれあいふるさと館(県人会館)2Fホール

「消費者に密着」したテーマに会員一同熱心に耳を傾ける

第36回文化講演会が、講師に弁護士・春日寛氏(県人会相談役)をお招きし、80余名の多数の参加者のもと、県人会館に於いて開催されました。

当日の講演内容は、『弁護士として「法律の制定・改廃を求めて60年」』という演題のもと、以下の多岐にわたる6つの項目の具体的な案件を解説していただきました。

  1. 不当な契約の拘束力からの離脱
  2. 少額・大量の被害の救済
  3. 酒類(アルコール分1度以上を含む飲料)販売の自由化を求めて
  4. 大量生産・大量消費下に於ける製品事故救済の適切・効果的な対応
  5. 「学習指導要領」は教科書作成にあたっての「金科玉条」なるものかどうか
  6. ゴルフ会員権販売の適正化を求めて

参加した会員にとっては、いずれも消費者に密着したテーマだっただけに、春日講師の具体的なケースに基づく、懇切丁寧なわかりやすい説明に、熱心に耳を傾けていました。

講演する春日寛氏(弁護士)
講演内容抜粋

不当な契約の拘束力からの離脱
約束は守られるべきものである。これは市民社会の根幹。
「目を開けよ。買ったものは仕方が無い(ドイツ法諺)」
しかしながら、このことを強調しすぎると不合理な結果が生じることもある。

【ケース】
ブリタニカ百科事典詐欺商法告発事件

・告発人  日本消費者連盟創立委員会
・告発代理人 川越憲治 引き継いで 春日 寛
・被告発人  ブリタニカ日本支社長外2名

【告発事実】
百科事典のカラフルな挿絵を見ていると、いつしか幼児でもこれに慣れ親しんで自然と英語力がつき英会話ができるようになる。
・告発先 東京地方検察庁
・告発日 昭和43年11月2日

【相手方の主張】
1. いわれているような詐欺行為は、していない。
2. 騙されたと思ったら支払いを停止すればよい。支払っている以上、被害者は黙認したことになる。
3. 本社には古い購入者の履歴は残っていない。神田あたりで古本を安く購入し正式な購入者のように装い購入代金を返金して欲しいと言われてもブリタニカとしては対応できない。

【告発者の主張】
1. 上記1については、録音テープを提出。
2. 上記2については、手形(丸専)で支払われてきた。手形である以上、決済せざるをえないと考え、泣く泣く決済してきた。
3. 上記3については、そういう者が例え居たとしても無視していい数字である。

【成果】
1. 被害者同盟が第1次、第2次、第3次と組織され総数1700名。総額1億9000万円の返金を受け、未組織の被害者も多数返金を受けた。
2. 割賦販売法が改正され、我が国で初めて「クーリングオフ」という制度が採用された。昭和47年5月24日。

【クーリングオフ】
1. クーリングオフとは、契約の申込みの段階では申し込みの無条件撤回。契約を締結した場合、契約の無条件解約。クーリングオフという制度は、この後訪問販売法等に関する法律や、消費者契約法等に広く採用され「消費者が不当な契約の拘束力から自由に離脱できる宝刀」となった。
2. ちなみに民法にも契約の拘束力から離脱するための規定がないわけではない。詐欺や脅迫による意思表示(民法96条)
3. しかし、詐欺叉は脅迫されたという事実は買主の方で立証しなければならない。この種の契約は相対(第三者の立ち合いなし)で取り交わされる場合が多く、立証するにしてもこのことを立証してくれる第三者がいないことがほとんどである。

熱心に講演に耳を傾ける参加者たち
司会団・山本ミチ子・実行委員長(左)
樋口昭・文化委員長(右)

■酒類(アルコール分1度以上を含む飲料)販売の自由化を求めて■

【ケース】
原告は、清酒醸造場を福島に持ち、福島県白河市の範囲内での酒類販売免許を有し、同市内で酒類の販売業を営んでいたものであるが、
1. 昭和56年9月18日は柏市周辺の地域で、「日本一酒の安売王」、「カクタの前にカクタなし」「カクタの後にカクタなし」等の宣伝文をばらまき、柏市内の駐車場にて不特定多数の者に対し酒類を販売。
2. 同年10月29日松戸市内に上記同様の方法で酒類販売。
3. 更に、前期同様の方法で水戸市内でも酒類販売。
上記1、2のケースでは松戸税務署が、3のケースでは水戸税務署が、それぞれの地区を管轄する簡易裁判所の許可状をとり、酒類等の差押処分を執行(中身は最寄りの川に流したとのこと)

私(春日)は前記3の差押処分者の無効確認訴訟の代理人に就任し、国を被告として、水戸地方裁判所に提訴。理由は、酒税法9条によって、酒類の販売を酒類販売業者に独占させており、他の者が自由にこれを販売するのを禁じているのは、憲法22条が認めている「職業選択の自由」に反対する行為である。「したがって、酒税法9条は憲法の職業選択の自由に違反する規定であって無効であるから、無効規定に基づいて執行された差押処分もまた無効である」と。

【被告国の主張】
1. 酒税は重要な税である。酒税収入の確保というのは、国家財政の見地からも重要なことであって、それを背負うのは酒類販売業者である。したがって酒類販売業者の経営の安定は無視できない。酒類販売業者を免許制にしているのは必要性と合理性が一応是認することができるからである。
2. 致酔飲料でもある(したがって、酒はどこでも売ってよいものではない)。

【原告の主張】
1. 酒税は製造過程で徴収される課税制度が採用されており、酒類販売業者は課税義務者でない。つまり蔵出し税である。
2. 酒税総収入のうち(昭和60年度)に於ける清酒の構成比は、全酒類の14.1%、ウイスキーの構成比21.4%ビールの構成比60%。この60%を占めるビールは、キリン等4社。21.4%を占めるウイスキーはサントリー等10社。総括すると課税収入の80%余は、キリン、サッポロ、アサヒ、サントリー、ニッカ、オーシャン等々10社によって納税されているということ。
3. 更に税収のうち同種の揮発油税、物品税と構成比がほとんど同一(4%から6%)にもかかわらず、これら揮発税や物品税を納める業者に免許制がとられていないこと(なお、現在消費税制度がとられることによって多少違うかもしれない)等々、統計表を図示して主張。

【判決】
結果、原告敗訴。
「明白性の原則」
何が「法律事実:法律の制定を必要とする事実」であるかは、立法府の方が司法よりも知っているはずである。立法府を差しおいて、司法が違憲である等々云う以上は、余程違憲性が「明白でない」と司法府はとやかくいえない。つまり、違憲であることが明白でない限り司法府が違憲・違法といえないということ。

【裁判官の法創造の熱意の欠如】
この結論は、裁判官に法創造の熱意が欠如しているということ。上目遣いしかできない職業のためか。
この判決には上告しなかった。というのは「規制緩和」ということで酒類販売の免許制が廃止される動きが出てきたことに因る。

「講演会」後は講師を囲んでの「懇親会」で楽しい一夜に

講演終了後、16:30~18:00、会場のしつらえを変え、会食・交流・懇談の「懇親会」。会場内の雰囲気も、リラックスしたものに一変。各処で春日講師を囲んでの歓談の輪が広がり最後はカラオケ大会となり、内容の濃い充実した、そしてなによりも楽しい一夜となった。