第45回卓話の時間「国際情勢の見方」

会の活動報告

卓話者:藤崎 一郎氏(元駐米大使)
日時:令和5年1月13日(金)
場所:ふれあいふるさと館(県人会館)2Fホール
主催:総務委員会

 藤崎元駐米大使をお招きし現実に動いている「国際情勢」について大変わかりやすくお話いただきました。


講演会の様子

 今回の卓話者は、1969年に外務省入省、在インドネシア大使館、OECD代表部、在英国大使館勤務、アジア局参事官、北米局長を経て2008年から2012年11月退任するまでの4年間にわたって駐米大使を務められた藤崎一郎氏をお招きし、以下についてお話いただきました。

①ロシアのウクライナ侵攻膠着の理由
②中間選挙後の米国
③習近平3期目の中国
④北朝鮮ミサイル連射の背景


挨拶する卓話企画コーディネーター 春日 寛氏

「心理」と「歴史」が国際情勢を見るキーワード

 講座では、国際情勢を見るキーワードとして「心理」と「歴史」の2つの重要性を指摘したうえで、最近のロシア、米国、中国、北朝鮮に関して、藤崎先生ならではの分析視点について解説いただきました。
 国際情勢は、深い森に例えることが出来る。ロシアや米国、中国、北朝鮮などの木があり、それぞれの国に安全保障や経済などの枝もあり、その森に迷い込まないことが肝心だと。
 国際情勢を見る時の考え方は、理論は関係なく、ドローンを飛ばして空から森を見るようにする。そのドローンには「心理」と「歴史」の二つのレンズが付いた双眼鏡があり、「心理」は相手国のリーダーや国民の立場で考えること、「歴史」は過去の歴史を振り返ると、現在に類似した経緯があり、そこから将来を見通すヒントが得られる。


熱心に「国際情勢」を聞く参加者

昨今のテレビ報道で気になる点

 昨今のテレビ番組を視聴していて気になることがある。出演している解説者がともするとウクライナ、西側の身びいきになっていないか、また、見えてる事象だけをただ描写しているだけでなくその意義背景を解説できているか疑問だ。ロシアのウクライナ侵攻をテレビの報道や解説は、ウクライナの抵抗が予想以上でロシアが手こずっている、補給面でもロシア側に問題が出始めているという報道が多い。
 早期に席捲できると考えていたプーチンの当初の思惑が外れたことは事実だろう。「プーチンの終わりの始まり」という見方は正しいかもしれない。でも「自分が聞きたいことを聞く」という身びいき解説になっていないかを常によく考える必要がある。
 キーワードとしての「心理」と「歴史」の2つの重要性を指摘した上で、最近のロシア、米国、中国、北朝鮮に関して、藤崎先生ならではの分析視点を解説されました。


会場では多数の質問が寄せられる

講演要旨

①ロシアのウクライナ侵攻膠着の理由
 ロシアのウクライナ侵攻は、インフラ攻撃が中心で焦土作戦はとっていないのが、侵攻がゆっくりしている背景にある。やはり両国間に親近感があり、併合しようとしているからだろう。
 プーチンにはソ連時代から続いている「力で既成事実化することが得」という心理があるのではないか。そのことは歴史が証明している。今回の侵略がロシアの歴史に大きな汚点を残すことは間違いない。しかし我慢比べはロシアに有利なのではないか。

②中間選挙後の米国
 現在のアメリカは、大変化中である。人種構成の変化、製造業雇用の減少など根っこで大きい変化が起きている。保守的な白人の中には芥川龍之介の蜘蛛の糸のように自分たちは損をしているのではないかという心理がある。トランプ大統領はそこをうまくついた。今の大統領選挙制度では獲得投票数ではなく選挙人の数次第なので最後まで選挙結果はわからない。トランプの復活もけっして排除はできない。バイデンもトランプも実はお互いが一番くみし易い相手である。反対党がずっと若い候補を出してくるのを恐れているはずである。

③習近平3期目の中国
 中国の30年前の歴史を振り返ってみると、鄧小平が「中国型社会主義市場経済」を唱えた。「社会主義」と「市場経済」という全く違うものの接着剤は、「先富論」だった。一部が先に富んでもいいという議論だ。また、中国が十分に力を蓄えるまでは爪や牙はちらつかせないようにすべしという「韜光養晦(とうこうようかい)」を唱えた。しかし、先富論は当然ながら格差を生み、国内に不満が鬱積していった。目をそらさせるためにも習近平氏は就任当初から、「中華民族再興の夢」、「中国製造2025」、「一帯一路政策」、「南シナ海基地建設」、「空母建設」などを次から次に打ち出し、さらに近年では、「戦狼外交」といわれる好戦的な外交姿勢を強め、米国のみならず、英、仏、豪、インドなどとの摩擦を招いている。韜光養晦はどこに行ってしまったのか。今の状況はまずいと気づいている者もいるはずで、機をとらえて対米関係などを軌道修正したいと考えているだろう。
 今の習近平政権の外交は、衣を脱ぎ捨て鎧を見せびらかす「戦狼外交」を展開し、今や八方塞がりの状況である。これを受けて「信頼され、愛され、尊敬される」中国のイメージを打ち出すように習主席が指示した。もし、台湾進攻をすればロシアのクリミア併合以上に国際社会の反発を受けて最大の課題である国内の安定を損なう恐れが十分にある。
 尖閣諸島問題は、実効的支配は日本にある。現状を長引かせればますます日本に有利になる。中国が一刻も早く現状を変更したいと考えているはずである。ある朝起きてニュースを見たら五星紅旗が尖閣に翻って中国軍空挺部隊の兵士がこれを守っているという悪夢は見たくない。

北朝鮮ミサイル連射の背景
 金正恩氏の安全保障を考える心理は、
①核ミサイルの放棄による経済制裁解除
②戦争
③現状維持の三つのオプション(選択肢)
しかない。
体制維持を狙う金正恩の立場を置いて考えれば、①も②も現実的ではなく、③しかないだろう。それが心理である。
 歴史のレンズでみると、ここ30年間は、いい約束をしながら悪いことを繰り返して時間稼ぎしている。だから、いいことを約束しても、すぐ信じてはダメだ。制裁を解除せずに、自暴自棄にならないようにして、少しずつ追い詰め、こちらを向くのを待つべきだ。

 以上、我が国でも、諸外国に於いても現在に類似した歴史や経緯があり、そこから将来を見通すヒントが得られることを具体的に解説して頂きました。
 随所に藤崎先生のご経験を踏まえたエピソードが挿入され大変に分かりやすく、かつ興味深いものでした。
 講演後には、会場から多数の質問が寄せられましたが、その一つ一つに丁寧かつ的確な応答がなされて、内容の理解をさらに深めることができました。

(総務委員長・及川 恒夫)
(会報誌:2023年3月)